> 経営哲学 > 足りないものに焦点を当てるのでなく、ありあわせのものを生かしていく生き方。地球科学の観点では、持って生まれたものを自分なりに生かしていけば、それで十分なのです。(鎌田浩毅)

足りないものに焦点を当てるのでなく、ありあわせのものを生かしていく生き方。地球科学の観点では、持って生まれたものを自分なりに生かしていけば、それで十分なのです。(鎌田浩毅)

<引用>

鎌田浩毅 『一生モノの超・自己啓発 京大・鎌田流「想定外」を生きる』(朝日新聞出版 2015年)

「地球は46億年前に誕生し、その1億年後に火星サイズの巨大な隕石が地球に衝突しました。その衝撃の破片が月になりました。それまで地球の自転は、4時間から6時間で1回転しましたから、地表は大嵐でした。月がうまれたことで、月と地球の引力がブレーキをかけて、現在の1日24時間になり、大気が安定して、38億年前に生命が生まれたのです。

地球の始まりのころ、大気はヘリウムと水素でした。その後、火山の噴火で地中の二酸化炭素が放出され、地球は二酸化炭素でおおわれました。酸素はありませんでした。生物が誕生して、27億年前に光合成がおこなわれて、二酸化炭素が減り、酸素が増え始め、植物が誕生して環境は激変したのです。初期の原資生物は死滅して、酸素をつかう生物が進化してきました。その後も、22億年前、7億5,000万年前、6億年前の数回にわたり、地球は「全球凍結」しました。氷点下40度、地表が氷におおわれ海も凍結しましたが、生命は滅びませんでした。海の深い底の部分は凍らず、生命はそこで生き延び、現在までバトンをつないできたのです。

生物はいまの形を目指して進化してきたわけでなく、環境の変化に適応しつづけて、偶然いまの形になったわけです。人も、あるべき姿から逆算して足りないものを探して、克服していくのでなく、いま手にしているものを使ってベストを尽くす。仕事や人生で困難に直面したときも、人はもっと自分の中にある力を信じていい。足りないことを嘆かなくてもいい。なければないで、なんとかなるものです。あなたは、ただ生きているだけで価値がある。地球科学の観点では、持って生まれたものを自分なりに生かしていけば、それで十分なのです。」

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<考察>

レヴィ=ストロースは、ブリコラージュを唱えました。

『野 生の思考』( La Pensée sauvage, 1962)において、「未開人」でも我々でも、日常生活のなかで、さまざまな間に合わせの細工をもって世界に対応 して、そこに着目することの重要性を指摘しました。

あるべき理想像と現実のギャップを埋め合わせることに、照準を合わせる手法もあります。ギャップを明確にしないと、何から手掛けていいか分からず徒労に終わりかねないリスクを回避し、集中と選択によって理想を達成する思考です。ギャップを克服できる力が発揮できればいいのですが、不足する部分が解消しきれず、自己肯定感が失われ自分を責めてしまうときは、別の視点で捉えてもいいようです。地球科学の観点からみると、本当に偶然に想定外がかさなって今の私たちが存在しています。自分に足りないことに悩まず、いま既に手にしている「ありあわせ」をうまく使いこなして、別の機会をさぐっていくブリコラージュの思考で、自己の回復を図ってもいいようです。持ち合わせがないなら無いで、その足りないことの面白さを堪能しながら、いさぎよく持って生まれた自分の力を信じて、ありあわせを工夫すれば十分なのです。太古の生物が語るとすると、俺もすごく大変だったけど、なんども乗りこえてきたから君もきっと大丈夫、と勇気づけてくれているように思います。