> ビジネス書の書評 > 個人の消費支出と連動している指標は、たった一つしかありません。それは『就業者数』です。賃金のもらい手=消費者が増えるか減るかによって、個人消費支出は決まります。(藻谷 浩介)

個人の消費支出と連動している指標は、たった一つしかありません。それは『就業者数』です。賃金のもらい手=消費者が増えるか減るかによって、個人消費支出は決まります。(藻谷 浩介)

<引用>

㈱日本総合研究所主席研究員 藻谷 浩介「コロナ後の新ビジネスチャンス」(PHP研究所 2020年)

「就業者数と個人消費(名目値)の長期推移をグラフにします。・・・パート、アルバイト、非正規、派遣をすべて含めた就業者数と個人消費の推移をみると、1995年以降、細かいところまで綺麗に連動していることがわかります。・・・1995年ごろまでは賃金が上がっていたので、就業者数の増加以上に消費が増えていましたが、それ以降は賃金が上がらなくなったので、就業者数と比例するようになりました。・・・消費税を5%に上げた1997年、8%に上げた2014年、リーマンショックが起きた2008年、個人消費はどうなったでしょうか?・・・微減か、むしろ微増しています。個人消費を冷え込ませたと世間一般に言われる要因は、年単位の数字には影響を与えていません。・・・このようにきちんとデータを見ていくと、「景気でなく就業者数に連動して、国内の消費支出は増減する」という、ごく単純な事実が見えてきます。」

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<考察>

消費税率のアップが、個人消費を冷え込ませたという要因は、データを詳細に確認すると影響していないことが分かると本書は指摘します。また、1991年頃のバブル崩壊に至っても1997年まで、GDPも個人消費も右肩上がりで伸びていました。2013年から行われたアベノミクスの「異次元の質的・量的金融緩和」は、貨幣量を5倍弱に増やしたものの個人消費は、ほぼ全く増えていないようです。株価が上がると、株式で利益を得た投資家の消費意欲が高まり、個人消費支出が増える(資産効果)についても、両者の連動は全くデータでは認められないとのことです。

データで確かめられることは、ただ一つ、個人の消費支出は、就業者数と連動しているということです

日本では、多年の少子化の結果、1995年をピークに、15~64歳人口が減り始めました。男性の就業者数も年々減少していますが、女性と65歳以上の男女の就業者数は増えていて、減少を一部カバーしています。

国内消費の成長のためには、働き手が増えることが必然だと正しく理解することが必要です。

消費税ゼロや量的緩和の拡大を通じて、消費増加を主張する人は、期待や思い込みから離れて冷静に、過去のデータを確認することが大事なようです。消費税がゼロになったとしても、いくら株で儲かったとしても、人間の心理や行動原理から自然に考えて、働いて安定した収入があるから消費するのであって、就業した収入を得る人数がトータルで増えなければ消費をしない行動原理のようです。