> 経営哲学 > 生命とは、動的な平衡(へいこう)状態のシステムである。(福岡 伸一)

生命とは、動的な平衡(へいこう)状態のシステムである。(福岡 伸一)

<引用>

福岡 伸一「動的平衡 生命はなぜここに宿るのか」(木楽舎 2009年)

「私たちは、自分は自分だ、自分の身体は自分のものだと、確固たる自己の存在を信じているけれど、それは実は、思うほど確実なものではない。

私たちの身体は、タンパク質、炭水化物、脂質、核酸などの分子で構成されている。しかし、それら分子はそこにずっととどまっているのでもなければ、固定されたものでもない。分子は絶え間なく動いている。間断なく分解と合成を繰り返している。休みなく出入りしている。実体としての物質はそこにはなく、一年前の私と今日の私は分子的にいうと全くの別物である。そして現在もなお入れ替わり続けている。」

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<考察>

本書では、私たちの身体は分子の「淀み」(それも一瞬の)でしかないと指摘します。

私たちの生命は、分子の流れの中にこそある。とまることなく流れつつ、あやういバランスの上にある。それが生命であり、そのあり方を言い表す言葉が、『動的平衡』なのです

爪や皮膚、髪の毛であれば、絶えず置き換わっていることが実感できます。しかし私たちの全身の細胞のそのすべてで置き換わりが起きていて、固い骨や歯のような部位でもその内部は動的平衡状態です。お腹の回りの脂肪も、たえず運び出され、たえず蓄えられている。分裂しないはずの脳細胞でもその中身やDNAは作り替えられるのです。

なぜそれほどまでに、自転車操業のような営みを繰り返さねばならないのか。それは、絶え間なく壊すことしか、損なわれないようにする方法がないからが、本質のようです

生命は、追手から逃れるために、必死に自転車をこいでいようだ。追手は生命をとらえて、その秩序を壊そうとたくらむ。温かな血潮を冷まそうとし、循環を止めようとする。追手の名は、エントロピー増大の法則。輝けるものはいつか錆び、支柱や梁はいずれ朽ち果てる。いかなる情熱もやがては消え、整理整頓された机の上もすぐに本や書類が積みあがる。乱雑さ(エントロピー)が増える方向に時間は流れ、時間の流れは乱雑さが増える方向に進む。生命も、この宇宙の大原則から免れることはできないそうです。

しかし、エントロピー増大の法則に先回りして自らをあえて壊し、そして作り変えるという自転車操業を続ける限りにおいて、生物はその生命を維持することができる。私たちの身体において、たゆまず、けなげに自転車をこぎつづけているもの、それが動的平衡の本質だと解説してくれます。

すべてのものは常に一定ではなく変化するという「諸行無常」や、すべてのものは不変の本質を持たないという「諸行無我」にも通じる生命の神秘を科学的にも裏付けているように感じます。