> エピソード > 「あきらめる」というが、すべてをあきらめるのではない。自分の目標をしっかり踏まえたままで、あきらめるのである。(数学者 広中平祐)

「あきらめる」というが、すべてをあきらめるのではない。自分の目標をしっかり踏まえたままで、あきらめるのである。(数学者 広中平祐)

<引用>

数学者 ハーバード大学名誉教授 日本人で2人目のフィールズ賞受賞者 広中平祐「生きること 学ぶこと」(集英社文庫 2011年)

「26才でハーバード大学に留学してから今日まで、・・・世界のあちこちで、およばぬこと、寒気を覚えたほどの天才を何人か、この目にした。・・・数学の問題を解く上で、英才に打ち負かされたり、自分とは格段の才能を見せつけれた時、自分の目標を踏まえて、あきらめた。そうすると、人間、嫉妬心は生じない。・・・ライバル意識が嫉妬に変形すると、創造のエネルギーがおびたたしく損なわれる。・・・「いいライバル意識」はいいが、「悪いライバル意識」はよくないのです。」

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<考察>

本書は数学のノーベル賞というべきフィールズ賞を、1970年(当時39才)に受賞した広中平祐氏の自伝。

学問は愉しいものだ。学ぶこと、考えること、創造する愉しさ、喜びを味わえる。著者は、「創造のある人生こそ最高の人生である」を信条とされている。

戦争で父親の事業が悲運に見舞われてから、13人兄弟で貧しい生活の中、京都大学と大学院時代もミカン箱を机として過ごしてきたが、学べる愉しさがまさり苦労したとの思いはない。

ハーバード大学の留学時代に、生まれながらの天才たちと席を並べていても、何も嫉妬を感じなかった。私はあきらめることを知っていたからだ。「あきらめる」というと、消極的に聞こえがちだが、人間はどこかであきらめるということも知っておかないと、いい仕事はできない

自分は、ひらめきは無いが、ねばり強さはある。この自分のねばり強い才能を活かせばいい。後年「特異点解消の一般次元」に関する論文を書き上げた。電話帳の厚さに匹敵する論文で、数学者たちは「広中の電話帳」と呼んだ。数学史上、最長の論文といわれた。この論文が評価されてフィールズ賞を受賞した。

「学ぶこと」は、受験勉強のように苦痛で退屈なものというイメージですが、知識を得ることばかりでなく、「知恵」を身につけることだ。「知恵」はものごとを深く見つめる「深さ」という側面とともに、ものごとの決断を促す「強さ」の側面もある。いつも明るく前向きにチャレンジする著者の姿勢や考え方にふれると、「生きること、学ぶこと」を素直に愉しもうと思えてきます。