> ビジネス書の書評 > 短期的に見ると原理主義の方が強いことがある。しかし、そうした一元論はやがて、長い時間をかけて崩壊する。(養老孟司)

短期的に見ると原理主義の方が強いことがある。しかし、そうした一元論はやがて、長い時間をかけて崩壊する。(養老孟司)

<引用>

養老孟司「バカの壁」(新潮新書 2003年)

「原理主義というのは典型的な一元論です。・・・バカの壁というのは、ある種、一元論に起因する面があるわけです。バカにとっては、壁の内側だけが世界で、向こう側が見えない。・・・向こう側が存在するということすらわかっていなかったりする。・・・一元論の根本には、「自分は変わらない」という根拠のない思い込みがある。その前提に立たないと一元論には立てないのです。」

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<考察>

向こう側のこと、自分と違う立場のことが見えなくなる、この「バカの壁」を超えるにはどうしたらいいのかが、本書のテーマです。著者は、それは「自然」を取り戻すことだと指摘されます。

ここでいう「自然」とは、二元論の多様な価値観、意識した社会性だけでなく無意識の領域、脳だけで測れない身体性への回帰、孤立した個人に留まらない共同体の生き方を指しているようです。

一つの原理原則にこだわって、人間が変わらないという前提に立つことなく、「知る」ことで、人間はガラッと変わり、世界の見え方さえ変わるものだと強調されています。

自分が知りたくないことの情報を自主的に遮断してしまうと「壁」が存在してしまう。「わかる」とはなにか、「知る」とはなにかを深く問うているようです。