> 生きがい・働きがい > 真の達成感や充実感は、多大なコストとリスクの作業の中にあり、常に失意と絶望と隣り合わせで存在する。つまりそれらは私たちの「仕事」の中にしかない。(村上 龍)

真の達成感や充実感は、多大なコストとリスクの作業の中にあり、常に失意と絶望と隣り合わせで存在する。つまりそれらは私たちの「仕事」の中にしかない。(村上 龍)

<引用>

村上 龍「無趣味のすすめ」(幻冬舎 2009年)

趣味の世界には、自分を脅かすものはない。人生を揺るがすような出会いや発見もない。心を震わせる失望や歓喜も興奮もない。真の達成感や充実感は、「仕事」の中にしかないのだ

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<考察>

著者自身の小説の執筆スタイルが語られています。

脳に負荷をかけて、できるだけ正確に書く。物語に破綻はないか、人物の造形に誤りがないか、発言と行動や態度に不自然さはないか、描写に過不足はないか、比喩が適当か、省略や反復は読者に伝わるものか、何度も何度も読み直し、まるで偏執狂のように、文章や言葉をそぎ落とし、足りないシーンや文や言葉を書き足していく。面白くもない地味な作業の繰り返し。これを、えんえんと繰り返すのが「小説の執筆」だ。

その結果、文章全体の正確さがあるレベルに達すると、物語の力が高まっていき、読者にある種の依存を生じるような「強い力」を獲得することになっていく。

働き方改革の時代、ワーカホリックは時代遅れでプライベートを重視する風潮ですが、多大なコストとリスクの作業で、常に失意と絶望と隣り合わせの真剣勝負の仕事にこそ、真の達成感と充実感を獲得できるのだという著者の思いには、共感するところが多いです。