> ビジネス書の書評 > 仕事、人生をすべて計画して、コントロールできると考えるのは人間のおごりです。(鎌田浩毅)

仕事、人生をすべて計画して、コントロールできると考えるのは人間のおごりです。(鎌田浩毅)

<引用>

鎌田浩毅 『一生モノの超・自己啓発 京大・鎌田流「想定外」を生きる』(朝日新聞出版 2015年)

「目標を定めて、到達するための計画を立て、必要なスキルを身につければ、仕事で成功して輝かしいキャリアへ・・・ビジネス書では、この手の「成功術」が繰り返し主張されています。しかし、ビジネス書を読破し、忠実に実践して成功を手にしても、必ずしも幸せになれるわけではありません。

ビジネス書は、「未来をコントロールできる」という考えや、正しくマネジメントすればどんな目標も達成できるいうスキル面から理想の実現を支えるものです。自己啓発書は、「このように心がければ人間関係はよくなる」「意識をこう変えれば人生はうまくいく」というように、自分の心の在り方を変えることで、理想を手に入れようとします。

たしかに、カンフル剤のように効き目がありますが、「理想は必ず実現できる」は「理想が実現できないとしたら、本人の意思が弱く、努力が足りなかったせいだ」に容易に裏返ってしまいます。そのため、ビジネス書や自己啓発書を読むと、かえってげんなりしてし、自分のダメなところを責められている気になる人が増えてきたようです。」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

<考察>

地震や地球を研究する筆者は「地球や生物の進化、そこにある想定外偶然性に救いがある」と主張します。

目標、計画、スキル、コントロール、マネジメントなど、経営や人生は、計画してコントロール可能だという前提で議論されがちですが、本当のところはどうでしょうか。長いスパンで現実の地球や生物の進化をしらべ筆者は、やさしく問いかけます。「物理学の世界でも、それまで真理とされていたものが、新しい理論でくつがえることは多いです。計画主義におちいって苦しんでいる人には違った捉え方もいいよと述べてきましたが、いや、計画主義が快適だという人は、そのまま進めばいいでしょう。まわりから寄せられるアドバイスは、自分が行き詰ったときに耳を傾ければいいだけで、不便さを感じていなければ、適当に聞き流しておけば十分だと思います。」

「自分のあたまで考え、誰にもたよらず自分の足で歩みはじめ、いずれ自分の足腰がつよくなることを信じて、ゆっくり待つのです。そして、恐れずに何でもやってみることです。どうせ結果が分からないなら、「きっとおもしろいことが起きるはず」と思った方がいいし、何もおこらなくても、それは必要な無駄だったと思えばいいでしょう。自分の基礎的スキルを身につけて自由度を広げるための力は、計画主義で効率的に自分をみがいて、その後は、偶発性をたのしんで生きる、そうしたバランス感覚がいいようです。

ただし、どのようなものであれ、ある生き方を人生の真理としてしまうと、結局は「その真理を実践できない自分」という引き算で考え始めてしまいます。どんな考えもすべての「真理」ではないのです。」

仕事や人生がコントロール可能だとする考え方で、スキルを磨く時期も必要ですが、その考えに行き詰まりを感じることも否定しない柔軟性が大切なようです。疲れたときは、休息することも必要です。想定外や偶然の出会いが次のチャンスにつながりますから、行動したくなったら、無駄だと思わず、どこかできっと役に立つこともあるはずと楽な気持ちで、身軽に何でもやっていいようです。

計画したとおりに理想が実現できないときに、自らの努力が不足したことを反省することも大切ですが、理想を実現するためのプロセス自体に価値がなかったと否定してしまわなくてもいいはずです。つぎのチャンスは必ず訪れます。チャレンジしたことを自らみとめて、計画どおりにいかなかったことも受け入れられる自分を待てばいいです。きっと立ち直ってきます。地球や生物も、自らの希望どおりに一直線で進化してきたわけではないです。思いがけない偶然で激的に変化してきました。

合理性と偶然性は、相反する考えでなく、両立するときがくるはずです。何事もコントロールできないものばかりだと、人は年齢を重ねておごりに気づくと同時に、コントロールできないことに価値があることにも、気づくように思います。