> 経営哲学 > 人間の認識には「遠近歪曲(わいきょく)」とでも言うべきバイアスがかかっています。つまり、近いものほど粗(あら)が目立ち、遠くのものほど素敵に見えるのです。(楠木 建)

人間の認識には「遠近歪曲(わいきょく)」とでも言うべきバイアスがかかっています。つまり、近いものほど粗(あら)が目立ち、遠くのものほど素敵に見えるのです。(楠木 建)

<引用>

楠木 建/杉浦 泰 共著「逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知」(日経BP 2020年)

「高度経済成長期はよかった。活気があって『三丁目の夕日』みたいな人情もあって

・・・と言いますが、当時は公害や受験戦争、通勤ラッシュがひどくて、「人口さえ減れば、すべての問題は解決する」と言われ続けてきました。・・・ようやく人口が減り始めた。・・・逆・タイムマシンに乗って過去を振り返ってみると「人口減少が諸悪の根源」と言われ始めたのは、たかだか20年や25年前のことです。

・・・それまでの100年間は、「人口増大こそが諸悪の根源」でした。明治以降、人口が急増して、南米への移民や戦後の育児制限などを国家事業で行い、狭い国土の割に人口が多いことが問題でした。・・・今日では、「人口減は諸悪の根源」とする見方ですが、これこそ典型的な近いものほど粗(あら)が目立ち、遠くのものほど素敵に見える遠近歪曲(わいきょく)といえます。」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

<考察>

本書では、過去を振り返ることで「本質」や大局観がつかめると指摘します。

「本質」とは何かを言えば、そう簡単に変わらないものです。歴史は変化の連続ですから、2030年の未来予想はむずかしい。しかし、その中でも変わらないものが「本質」といえます。

人口減少は、本当に悪なのか?

「少子高齢化はすすみ、人口減少で日本は大変になる」は、よくある議論です。しかし、「遠近歪曲」と本書が指摘するように、人口増加の社会は良いことばかりでなく、公害、交通渋滞、競争社会の激化など問題もあったわけです。人口減少に転じて問題とされるのは、生産する人口が減り、納税者が少なくなれば社会保障費を賄えなくなり、いずれ不足する納税者の負担を借金で補ってきたことが限界となる。この難局をいかに乗り越えていくかという議論です。

日本の過去を振り返ると、明治維新があり、東京大空襲があり、過酷な国難がさまざまあり、つねに乗り越えてきました。避けがたい人口減少の社会に対して、私たちは、マイナス面に捉われて悲観するばかりでなく、人口が減少した将来の日本であっても変わらない「本質」とは何か、日本の国際的な競争力となる源泉(産業、企業、文化など)を問い直し突破口を見つけて、皆で難局を克服していかねばならないと思います。